乳児期における社会的学習
誰からどのように学ぶのか
奥村優子
赤ちゃんはすごい学習能力を持って生まれてきます。生後1年で声や音を聞き分け,記憶力が発達し,言葉を理解し発話するようになります。こうした赤ちゃんの学習メカニズムを科学的に知りたいと思い,大学院から乳児の社会的学習をテーマとして研究を始め11年が経ちました。
本書は,発達心理学の視点から乳児の認知機能に注目し,その学習メカニズムを科学的に明らかにすることを目的としました。本書では,乳児のロボットからの学習や,他者の視線や言語(方言)を手がかりとした学習といった筆者の実験を詳述しています。そして,実験で明らかにされた赤ちゃんのすごい能力について,乳児は誰から,どのように学習しているのかといった学習メカニズムの発達について議論を深めました。
近年,乳幼児とロボットとのインタラクションに関する研究は,教育支援やセラピーなどの側面で注目を集めています。本書の知見が発達心理学のみならず,認知科学,ロボティクス,教育学などの幅広い分野において今後の理論の展開や実践に繋がれば幸いです。
研究テーマ別
注意の生涯発達心理学
坂田陽子
もっと初学者から専門家まで使えるわかりやすい注意研究の本がほしい,注意研究を俯瞰的に見た本がほしい,成人を対象とした注意メカニズムの概説だけでなく,注意機能がどのように発達的変化を遂げるのか知りたい……そういったリクエストに応え,5年の歳月をかけ,全部網羅した本を作りました。注意研究をテーマ別に分けて初学者にもわかりやすく解説し,それぞれについて乳幼児から高齢者までの研究を紹介するという,横断的かつ縦断的な一冊です。これさえあれば,現在の注意研究の大枠がわかる……,いや,余計「注意とは何ぞや」と思うかもしれません。そもそも国語辞典の「注意」を引くと,「気を付けること,警戒すること」など,自ら意図的に行う行動が書かれています。でも研究では「無視すること,抑制すること」など意識せずとも行っている行動も取り扱います。そんな行動,どうやって測定するの?赤ちゃんや高齢者は成人と同じような注意能力を持っているの?─注意研究の沼にハマらないように,注意してお読みください。
これからの幸福について
文化的幸福観のすすめ
内田由紀子
幸福感研究を始めたのは大学院に進んだ頃であった。研究室では北山忍先生の指導のもと,様々な比較文化研究が行われていた。その一つとして幸福の要因や定義についての日米比較を実施した。つまり私の幸福感研究のスタートラインは,文化心理学的関心に依拠したものであった。ほどなくして,社会の状況が変化した。国の豊かさの指標として幸福感が取り上げられるようになり,幸福の測定や国際比較の方法・解釈などの応用的ニーズが一気に高まった。こうした中,幸福はだれもが目指すべきものであるという前提で議論が進み,どうすれば幸福になれるのかという問いが多くなった。しかしながら私自身は,幸福を求める心の社会・文化的基盤や,個人と集合のバランスを考えることの重要性をますます感じるようになった。そのため,幸福とは果たして何なのか,個人と社会の関係から考察したいと思い,本書をまとめた。校正・仕上げの段階がコロナ禍と重なり,幸福とは何であるのかを改めて問われる日々となった。また新たな気持ちで研究を続けていかねばと思う。
大学生のためのクリティカルシンキング
学びの基礎から教える実践へ
田中優子
原著であるCritical Thinking Skills for Education Studentsは,英国で教員養成課程を含む教育学,心理学や社会学などの関連領域を学ぶ大学生向けに書かれた教科書です。「批判的思考とは」という基礎的な問いからはじまり,大学での学習や研究のためのスキルとしての批判的思考,さらには教育の現場における批判的思考の実践へと進む構成になっています。本書の対象が将来教育に関わる大学生ということもあり,自分自身が批判的に考えることだけでなく,教育する側として,批判的思考を促す方法や他者が書いたレポートから批判的視点を見つけたり,評価したりするスキルを扱っているところが本書の特徴のひとつです。各章には,教育現場における「実践例」の紹介や「練習問題」が設けられており,大学生が自身の専門領域と結びつけながら能動的に批判的思考を学んでいけるような工夫がされています。翻訳にあたり,日本の大学生が知識を深められるよう,日本語で読むことのできる推薦図書を訳者が加えました。
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