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私の出前授業

高校生のための心理学講座@九州心理学会(熊本大学)

原口 雅浩
久留米大学文学部心理学科 教授

原口 雅浩(はらぐち まさひろ)

Profile─原口 雅浩
(画像は九州心理学会ロゴマーク)
1989年,九州大学大学院文学研究科心理学専攻修了。九州大学教養部 助手,久留米大学文学部人間科学科 講師,助教授を経て2007年より現職。2018年より九州心理学会 事務局長。専門は知覚心理学。著書に『医療行動科学のためのミニマム・サイコロジー』(分担執筆,北大路書房),共訳書に『視覚情報処理モデル入門』(サイエンス社),『ビジュアル・イリュージョン』(誠信書房)など。

 

2019年11月17日,熊本大学黒髪キャンパスにおいて「高校生のための心理学講座」を九州心理学会との共催で開催しました。熊本県内の高校生を中心に,当日は87名の方にご参加いただきました。以下,講座の開催に至るまでの経緯,各講師の発表内容の概略と当日の様子などをまとめます。

講座の開催に至るまでの経緯

私が所属している久留米大学は,2013年度から「高校生のための心理学講座」を開催しています。当初は久留米大学の教員が講師を担当していましたが,2017年度から,近隣の大学の先生にも講師をお願いしています。

2018年度の日本心理学会第82回大会で,「地域心理学会の魅力と課題」と題した公募シンポジウムが開催されました。そこでは地域学会ならではの魅力も語られましたが,共通の課題として地域学会の活性化があげられました。九州心理学会でも活性化を目指して,これまでの学部学生の発表資格,優秀発表賞の設置,九州学生心理学会との合同開催に加え,2019年度の九州心理学会第80回大会(熊本大学)で「高校生のための心理学講座」を共催とすることを理事会で決定し,企画に応募いたしました。

当日の講座内容と様子

以下の5名が話題提供を行いました(登壇順)。当日は一題を50分ずつとし,40分から45分程度で話題提供を行い,その後10分程度の質疑応答としました。司会は藤田 豊先生(熊本大学)と原口が担当しました。

⼼理学研究法【原⼝雅浩(久留⽶⼤学)】

心理学では,こころ(行動)を研究するために,観察,実験,調査・検査,面接という方法が用いられています。本講義では,心理学で行われているこころを測る試みの中から,「態度」「思考過程」「性格」を測る方法について,IAT(潜在連合テスト)やストループ検査などを用いて概説しました。後半は,およそ20名ずつ4班に分かれて九州心理学会の発表(ポスター形式)の見学を行いました。高校生からは「九州心理学会の発表の見学もさせていただきました。お昼休みにもう一度のぞいてみたら,ある方から説明をしていただきました。難しいと感じる部分もあったけど,楽しかったし,心理学をもっと大学で学びたいと思いました」という感想が寄せられました。

知覚⼼理学【寺本 渉(熊本⼤学)】

⼼がつくる「リアル」な世界について講義していただきました。高校の模擬講義などで知覚心理学の話をすると,決まって「それも心理学なのですか」という反応が返ってくるそうです。「見る」「聞く」「触れる」という行動は,日常のありふれた行動で無自覚に行っている分,その背後にある心の働きに気づきにくいのだと思います。そこで本講義では,視覚,聴覚,触覚やその組み合わせによって生じる錯覚を生で体験し,物理世界と知覚世界のギャップに気づいてもらいました。われわれの感じるリアルな世界はこれまでの経験をもとに個々人の心が色づけた,いわば心の創造物であることを伝えられたと思います。

⽣理⼼理学【福⽥恭介(福岡県⽴⼤学)】

目の動きから⼼の働きを探る講義をしていただきました。受講者同士のやりとりによって,指の動きを追うときのゆっくりした眼球運動や文章を読むときのピョンピョン跳ぶような眼球運動を経験してもらいました。また,まばたきは,目の乾燥によって生じるだけでなく,予期中は抑制され,処理終了後に発生すること,その一方で,想起中は,まばたきが発生しやすいことを示していただきました。これらの目の動きは,自分の意志ではコントロールできないこと,さらに,心の働きと密接に関連しており,「目は心の窓」であることが理解できたと思います。

社会⼼理学【藤村まこと(福岡⼥学院⼤学)】

本講義では,社会心理学が取り扱う領域を自己・個人内過程,身近な対人関係,集団・組織,集合現象,社会・文化の五つに分けて,各領域の特徴やつながりについて説明をしていただきました。その後,葛藤分類(課題葛藤と関係葛藤)とそれらが集団の効果性に及ぼす影響,葛藤解決方略や第三者による葛藤介入の効果,そして,失敗の捉え方と失敗学習について解説をしていただき,対人葛藤は集団にとって避けるべき悪者なのか,良い集団やチームとはどのようなものなのかを高校生に考えていただきました。

福祉⼼理学【稲⾕ふみ枝(⿅児島⼤学)】

超高齢社会になり,高齢者に対して病院や介護施設,コミュニティなどの福祉の現場で,心理支援の必要性が高まっています。本講義では,心理,社会,身体的喪失を経験して引きこもり状態にある人や認知症高齢者とコミュニケーションをとる援助法などが紹介されました。認知症ケアでは,老化と認知症の理解を基本とします。また,言語機能などが低下する認知症の人との関わりにおいては,主観に沿った傾聴を行い,感情の表出を促進したり,個々のペースに合わせたりする支援が有効だといわれています。それらの実践として傾聴技法であるアクティブリスニングやバリデーション法が紹介されました。

どの講座も座学だけでなく,参加者に体験してもらったり,考えてもらったりするものでした。終了後のアンケートで,「内容に興味が持てた」「わかりやすかった」「新しい知識を得ることができた」「心理学についての関心が増した」のすべての項目で平均得点(5点満点)が4.6点以上あり,参加者の皆さんにも満足していただけたと思います。

さらに,「学校の先生に『心理学は思っているのと違う』と言われ,講座に参加しました」「幅広い心理学について今日一日で知ることができ,さらに興味を持ちました」「心理学の道へ進むか迷っていましたが,今回の講座を聞いて,心理学を研究したいと心から思うことができました」などの感想が多数寄せられ,「心理学」への誤解を解き,「心理学は実証に基づく科学的な学問」ということを専門家がわかりやすく伝えるという講座の目的を達成できたと思います。

なお,第81回大会(鹿児島大学)でも共催の予定でしたが,コロナ禍の影響で延期されました。

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