心理学キャンパス
奈良大学
村上 史朗(むらかみ ふみお)
所在地:奈良県奈良市山陵町1500
http://www.nara-u.ac.jp/
Profile─村上 史朗
奈良大学社会学部心理学科教授。専門は社会心理学。著書に『責任と法意識の人間科学』(分担執筆,勁草書房),『社会心理学研究入門 補訂新版』(分担執筆, 東京大学出版会)など。
はじめに
奈良大学の前身である南都正強中学は,1925年に創設者である薮内敬治郎理事長により経済的に恵まれない勤労青年のために創設されました。建学の理念である「努力が天才であるとの信念を以て心の光となし,自己の願望を遂げさせるものは自分自身であるとする信念を以て心の力となす」という言葉には,生まれや環境ではなく自己の努力によって道を拓くべしとする苦学生へのメッセージが込められています。その後,奈良大学は1969年に文学部のみの単科大学として開設され,1988年に現在の山陵キャンパスへ移転する際に社会学部を増設し,現在は2学部6学科,大学院に2研究科4専攻を置いた総合大学となっています。法人としては,大学に加えて附属高等学校と幼稚園も擁しています。
キャンパスの特徴
奈良市北部にある山陵キャンパス周辺は,豊かな自然に囲まれており,落ち着いて学修を進められる環境となっています。最寄り駅である近鉄京都線高の原駅からは,大阪難波や京都まで30分強で移動でき,生活の利便性は享受できる一方で,住居費を含む生活費は関西圏の中でも安い方であるため,一人暮らしをする学生にとっても生活しやすいと言えます。
学内の施設で奈良大学の「売り」と自信をもって言えるのが図書館です。朝日新聞出版『2019大学ランキング』(2018年4月12日発行)の大学図書館ランキングでは1位にランクされました。「所詮,2学部しかない小規模大学」と軽く見て図書館を訪れると,予想外の充実ぶりに驚くことでしょう。奈良大学は全国でも珍しい,史学科と文化財学科が看板学科という大学なので,歴史系の書籍の充実度が高いのですが,その裏でひっそりと心理学を中心とした社会科学・行動科学系の書籍の拡充も進めていますので,ご期待に応えられると考えています。
また,2019(令和元)年には創立50周年事業の一環として,150人程度を収容する小規模のホールとアクティブ・ラーニングに用いることのできる複数のセミナールームを備えた新棟「令和館」が建設されました。
社会学部の歴史と心理学科の特徴
初代社会学部長の三隅二不二教授はグループ・ダイナミクスを学部の基本テーマとし,その後調査研究への取り組みを重視することから「リサーチ・オリエンテッド」,実践的研究を重視することから「アクション・リサーチ」が学部の特徴を表すコンセプトとして掲げられるようになりました。社会学部の学科構成の変遷は少し変わっています。開設当初は「社会学科」「産業社会学科」の2学科構成でした。その後,社会学科は1999年に「人間関係学科」に,2007年に現在の「心理学科」に,それぞれ名称変更されました。産業社会学科は1999年に「現代社会学科」に,2010年に「社会調査学科」に,2015年に現在の「総合社会学科」に,それぞれ名称変更されました。つまり,心理学科は学部開設当初には社会学科だったのです。このような経緯もあり,社会学部では学科間の壁が非常に薄く,両学科の学生と教員が入り交じって共同研究室で談笑するという光景もよく見られます。
奈良大学の心理学科の専任教員は,数ある心理学の領域の中でも臨床心理学と社会心理学を特に厚くするという,かなり「割り切った」構成になっています。小規模大学なのであちこちに手を伸ばすと全てが薄くなってしまうために領域を絞って特化した,という事情もあるのですが,先程も述べた学部の歴史的な背景による部分が大きくなっています。実践的な学問を重視するという学部創設以来のコンセプトに沿って,心理学の中でも応用的な領域に力を入れているわけです。とはいえ,もちろん基礎的な領域を軽視しているわけではありません。心理学の多様な領域をカバーする科目を配置し,認定心理士,公認心理師,臨床心理士(第一種指定校です)などの心理学領域の主要な資格を取得できるカリキュラムを構成しています。本学の臨床心理学の教員は豊富な現場経験をバックグラウンドにしており,科目構成は医療・教育・司法・発達・福祉・産業の6領域をカバーしています。また,奈良県の交通の要所である大和西大寺駅付近に臨床心理クリニックを設置しており,地域の心理臨床に貢献するとともに,公認心理師や臨床心理士を目指す臨床心理学コースの大学院生が教員の指導のもとでケース経験を積む機会も十分に確保されています。社会心理学についても,実験や調査などの計量的な研究を主とする教員とフィールドワークなどの質的な研究を主とする教員を擁しており,多様なアプローチが可能になっています。
現在のカリキュラムは2018年に改訂されたものです。公認心理師の受験資格に対応したこととあわせて,二つの点でさらなる充実を図りました。一つは,実習科目の拡充です。認定心理士や公認心理師の資格取得に必要な実習に加えて,多数の実習科目が配置されています。もう一つは,より高度な学修につながる科目の強化です。具体的には,年度ごとに各教員が自由にその内容を決定できる科目を,原則各教員につき1科目担当するようにしています。それぞれの教員の専門性を活かし,ある教員は特定の領域について深く掘り下げ,別の教員は他の学問領域と重なる学際的なテーマを設定するなど,心理学の奥深さと広がりを感じられるように科目構成を工夫しています。
これから大学への進学を考えている皆さんへ
大学の教育面での役割を「研究者養成」「教養教育」「専門職養成」の三つの要素と考えた場合,奈良大学は公認心理師や臨床心理士など一部専門職養成に注力しつつ,全体的には教養教育を重視する大学となります。研究者志望の学生にはもちろん最大限のサポートをしますが,正直なところ数は少ないので,メインは教養教育となります。教養というのは人によって定義が違う言葉なので語ることには勇気がいりますが,私が考える教養とは「広範な知識をつなげる力」です。生活の中で直面する問題に対して,自分の引き出しに入っている知識との類似性と相違点を探り,その知識を活用する力です。この力を身につけるためには,多くの知識を持っていることも必要ですが,それらの知識を単に丸暗記するだけでは使いこなせません。別の問題との類似性や相違点を考えるためには,問題を抽象化して理解する能力が必要であり,それを養うのが教養教育と考えています。よく「教養なんて役に立たん」と言われますが,それは教養の知識の面だけしか見ていない発言です。問題を抽象化して,他の知識との関連性を把握する能力は,逆に役に立たない場面が想像できないものです。
ここまで読んで,「心理学関係ないじゃん」と思った方も多いと思いますが,その印象は正しいです。問題の抽象化能力は,どのような学問分野でも身につけることが可能です。その意味では,専門職や研究職を目指す人以外は,大学で学ぶ内容は何であっても構いません。ただし,この能力は本気で卒業研究などに取り組み,アタマを振り絞って考えなければ身につきません。ですから,「本気になれる」内容を学べる学部や学科に進学してください。「心理学に興味があるけど,研究職や専門職を目指しているわけじゃないし,ツブシの効きそうな学部に進学しようかな」と考えているそこのアナタ,その「ツブシの効きそうな学部」はあなたが本気になれる内容を学べそうですか?もしそうでないなら,興味を持っている心理学を学ぶことを強くお勧めします。理由なんて「面白そうだから」で十分です。幸い,心理学は「学んでみたら期待外れだった」ということはほとんどないと言えます。心理学はおそらく皆さんの想像以上に多様な問題に関わりがあります。「心理学ワールド」のバックナンバーを何冊か読んでみればその多様性が実感できるでしょう。人間が関わる問題で,人の心と無関係なものなどないのですから,「本気になれる」テーマを見つけることは難しくありません。
大学とのマッチングは,個人によって合う合わないが生じますので,最終的には縁になると思います。コロナのためオープンキャンパスで直接雰囲気を知ることが難しい状況ですが,大学webサイトなどを通じて少しでも雰囲気をつかんでください。奈良大学でもバーチャルオープンキャンパスが企画されていますので,ご参照いただければ幸いです。
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