装いの心理学
整え飾るこころと行動
鈴木公啓
古今東西,老いも若きもおこなうものの一つに装いがあります。装わないヒトはいません。生まれてから死ぬまで,多くの時間を人は装って生きているのです。
装いには非常に多様な内容が含まれます。おそらく,装いという用語に対して多くの人がイメージした内容よりも幅広いものが含まれています。化粧や服装だけでなく,整髪や染髪,刺痕文身(所謂イレズミ),美容外科手術による変化,ダイエッティングやボディビルディングによる体型変化,さらには,姿勢や言葉によるものまで,装いに含まれます。
身体の見た目を変化させるということは,自己をどのように認識し,そして,自己がどのように社会に認識されるかということと関連します。これは,自己をヒトの社会の中でどのように位置づけるのかということに繋がってきます。
本書では,装いの背景にどのような心理があるのか,多様な装い,そして関連する諸テーマについて,データに基づき丁寧に概説しました。装いの心理の広さと深さ,そして面白さを感じて頂けることを期待しています。
発達科学から読み解く 親と子の心
身体・脳・環境から探る親子の関わり
田中友香理
赤ちゃんや子どもの心は,他者と身体を触れ合わせ,身体を共有する経験を通して動的に発達します。そのため,子どもの心の育ちを理解するためには,子ども側だけでなく,子どもと日々関わる他者,つまり,親の側の心の育ちについても理解することが重要です。本書は,「親子の心の育ちをセットでみる」という点を軸に据え,「脳」「身体」「環境」という三つのキーワードから心の発達に迫ります。「親としての心と脳の発達と親への支援」「子育て環境と心と脳の発達の関係」「親子の身体接触が心と脳に与える影響」「日々進化する社会環境における心と脳の発達」などについて,エビデンス(科学的根拠)にもとづいた研究知見を紹介しています。
子育てや教育にかかわる方や研究者をはじめ多くの方に手に取っていただき,現代の親子の心の発達についての科学的な理解を深めていただくとともに,コロナ渦で「身体と身体が触れ合う」という機会が得にくくなっている中,今一度,心の発達における「身体」の重要性について考えていただくきっかけになればと思います。
革命のヴィゴツキー
もうひとつの「発達の最近接領域」理論
伊藤 崇
本書は,1980年代のニューヨークに草の根的な社会的活動のための拠点を設立した二人の在野の研究者が,その活動の背後にある思想を開陳したものである。
著者らは,ヴィゴツキーを「完成すること」(complete)を本書での課題とした。本書で言う完成とは,「そろって意味をなすこと」である。コレクションをそろえることなどを指すコンプリートだ。
即興劇では,誰かの「オファー」を別の誰かが受け止め,何らかの応答をすることでようやく舞台が完成し,そこに意味が作られる。誰かからの応答がそろってはじめて,最初の発話はオファーとなる。
同様に,ヴィゴツキーの著作はそれ自体で閉じて完結していない。著者たちは,彼のいた時代や場所から遠く離れたニューヨークで,彼の言葉に応答した。そうであれば,この翻訳もまた,著者らへの応答なのだ。
本書を手にしたあなたも,なんらかの形でぜひ応答してほしい。いかなる応答であれ,そのことによって,ひとつの全体が完成し,そこに新しい意味が出来するのだから。
ワードマップ 質的研究法マッピング
特徴をつかみ,活用するために
神崎真実・春日秀朗
本書は,代表的な質的研究法を,過程−構造,実存−理念の二軸で整理してマッピングしたものです。近年,質的研究が盛んに行われ,研究ジャーナルで質的研究の論文を目にする機会も増えました。質的研究への関心は高まっていますが,初学者にとって質的研究の学習は容易ではありません。質的研究法には統計分析のような明確な基準がなく,研究法同士の関係性も整理されていないため,共通点や差異が把握しづらい状況にありました。
そこで本書は26の質的研究法を,①モデル構成,②記述のコード化,③理論構築,④記述の意味づけという─先述の二軸によって作られた─四つの枠組みで整理しました。そして,各研究法について最良の著者に解説していただきました。各解説がコンパクトにまとまっているので,多種多様な質的研究法を知りたい人におすすめです。本書の整理法はあくまでも仮説的なものですが,こうした整理を通して質的研究への関心が高まり,質的研究に関する議論が展開されることを願っております。
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