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ブリスベンのオープン&フリーな雰囲気に触れて
佐藤 修哉(さとう しゅうや)
Profile─佐藤 修哉
The University of Queensland, School of Psychology, Visiting Academic などを経て2019年より現職。博士(教育学)。専門は臨床心理学。主要共著論文に「高校生用日本語版心理専門職への援助要請に関する態度尺度短縮版(ATSPPH–SF)の信頼性および妥当性の検討」『学校メンタルヘルス』17(2), 142–151, 2014など。
日本学術振興会の特別研究員PDだったときに,2018年3月から2019年2月までオーストラリアのクイーンズランド大学で,客員研究員として研究留学する機会を得ました。当時の受け入れ指導教員だった東京成徳大学の石村郁夫先生から強い後押しと応援をいただき,さらに周囲の先生方からも多大なご支援をいただいたことで,念願だった研究留学を実現することができました。お世話になった先生方やいきなりのお願いだったにもかかわらず私を受け入れてくださったJames Kirby博士にはとても感謝しています。
今回,日本と海外との違いや,留学中に感じたこと,経験したことについて自由に振り返ってほしいとのご依頼をいただき,せっかくの機会ですので振り返りも兼ねて書き連ねてみようかと思います。
まず思うことは,研究留学をしてみて本当によかったということです。研究活動はもちろんですが,初めての長期にわたる海外生活で,さまざまなことを経験できました。ホームステイやルームシェアも初めての経験でした。シェアメイトはとてもフレンドリーで,週末は一緒にレストランやバーに行ったり,ホームパーティーでお互いの国の料理を披露したりしました。毎日フェリーで通勤したこともいい思い出ですし,交通機関を利用するときに隣に座った人から話しかけられることもよくあり,日本との文化差を感じました。
あまり私生活のことばかり書いていると,字数が足りなくなってしまうので本題に移りたいと思います。日本の心理学は海外と比べると相当に遅れているということを,学部生時代からよく耳にしていました。クイーンズランド大学の心理学部は,心理学分野の世界ランキングで毎年20位前後に位置しているとても研究レベルの高い大学です。実際にいろいろと見聞きして感じたことは,日本の優秀な研究者は,決して世界にも引けを取っていないということでした。日本の研究者がさまざまな業務に忙殺され,スキルや能力を活かすことができていないのだとすれば,とてももったいないことだと感じました。クイーンズランド大学では,ほとんどの研究者は17時前には帰宅してしまいます。特に子育てをしていると,子供だけで留守番をさせておくとオーストラリアでは違法になってしまうので,子供を迎えに行かなければいけません。それでも研究成果があがっているのは,やはり研究に集中できる環境があるからだと思います。私が帰国するときに,来年からの専任教員としての授業コマ数や業務の内容を話すと,「それでどうやって研究をするの?」と同僚達は固まっていました。
所属していたリサーチグループの皆さんは研究へのエネルギーに溢れており,大変よい刺激をいただきました。コンパッションについて学びたいと思い留学しましたが,各メンバーの興味関心に基づき,さまざまな切り口で研究が展開されていて,学ぶことが多くありました。例えば,コンパッショネイトな状態にあるときに脳はどのような反応をするのかということや,ボディイメージとの関連,ジェンダーとの関連,コンパッション・フォーカスト・セラピーの効果研究など,多岐にわたっており,大変に興味深いものでした。また,何より,メンバーの皆さんがとてもコンパッショネイトで,優しさに溢れていました。おおげさに聞こえるかもしれませんが,本当にそうでした。
まだコンパッションは,日本ではあまり馴染みのある言葉ではないと思いますが,すでに海外では多くの実証研究が行われています。この変数は,コミュニティにおける文化から大きく影響を受けると思われます。今後は,非英語圏である日本において,どのようなコンパッションの研究が展開可能なのか,模索しつつ,研究を進めていきたいと思っています。
留学経験は間違いなく私の人生にプラスとなりました。今後も海外と接点を持ちつつ研究を進めていこうと思っています。
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