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Keeping fresh eyes 心理学研究 最先端

米国での臨床経験を日本の現場で活かす

佐籐 徹男
札幌国際大学人文学部心理学科 准教授

佐籐 徹男(さとう てつお)

Profile─佐籐 徹男
ルイビル大学大学院教育・人間発達研究科博士課程修了。博士(カウンセリング心理学)。2018年,ネモーズ/アルフレッド・アイ デュポン児童病院臨床ポスドク修了,2019年より現職。

私は大学からポスドクまで米国で過ごしてきました。専門はクライエントの文化的背景を考慮した上で臨床に取り組むカウンセリング心理学という分野です。主に児童病院で臨床経験を積み,最後の数年は自閉スペクトラム症(ASD)の幼児への様々なアセスメントと介入を学び実践し,3年ほど前に帰国しました。今取り組んでいることについて書かせて頂きます。

ASDに関して米国では早期発見・早期介入が盛んに行われています。児童病院等で心理師がアセスメントする場合は,病院に複数回来てもらい,インテークからフィードバックまで合計の時間を半日から一日かけることが多いかと思います。しかし,ほとんどの専門機関では,この包括的なアセスメントを受けるために家族は数ヶ月以上待たなくてはいけないという現実もあります。日本の医療制度を考えると,このように多くの時間をかけてアセスメントをすることは難しいように思いました。医師の診断と家族のASDの理解に,どのようにお手伝いができるのかを模索している最中です。

ASD幼児への介入に関して,応用行動分析が主に使われており,近年様々なエビデンスのある介入プログラムが開発されています。それらのプログラムは,行動科学と発達理論に基づいており,自然的発達行動介入(Naturalistic Developmental Behavioral Intervention)としてまとめられています[1]。般化しやすいように日常生活に近い自然な形で,また介入への動機を高めるために幼児の興味に沿った形で,ASDの発達特性に焦点を当てて応用行動分析を使うようなイメージです。

一般的にASD幼児へは週25時間以上の専門的な介入が推奨されていますが,実際には米国でもその時間を確保するのは難しい現状です。また,程度の差はありますが,専門家達は親へ介入の仕方を伝えてきました。そこで,専門家が直接幼児へ介入するのではなく,初めから親に自然的発達行動介入を学んで実践してもらう手法を取り入れた,親を介した介入(parent-mediated intervention)が行われるようになりました。この親を介した介入は,専門家によるきめ細かな介入に取って代わるものではありませんが,時間的・費用的にコストパフォーマンスが良く,特に幼児へは効果的と言われています[2]。日本の現状を考えた時には,この親を介した介入が適していると思い,米国で学び実践してきました。現在,この親を介した介入を実施できるように,保育園で心理支援を行っています。心理師の役割,発達障害に関しての受け取り方,子育てについての方針等,日米の違いもありスムーズに進まないこともありますが,より良い療育環境を提供しようと取り組んでいます。

また,私自身米国で思春期の児童を対象とした様々な集団療法を行っていた経験を活かし,現在高校の部活動に所属する生徒へ,メンタルヘルスと競技パフォーマンス向上を目的として,心理教育を実施しています。アスリートに特化したパフォーマンス向上のためのマインドフルネス・プログラムであるMindfulness-based sport performance enhancement(MSPE)の研修を受け,そのエッセンスを部活動の生徒達へ提供しています。マインドフルネス瞑想では座ったり横になった状態で体の部分に注意を向けることが多いですが,MSPEでは体を動かしている最中に体の部分に注意を向けます。そうすることで,未来に関する不安を反芻してしまうのではなく,スポーツの最中に今現在起こっている事に意識を向け,本来持っているパフォーマンスを引き出すことを目的としています[3]。実際に高校生や部活動を担当する高校教員と接する中で,臨床で培ってきた経験と技術がどのように役に立つかを考え,実践研究をしています。

文献

  • 1.Bruinsma, Y., Minjarez, M. B., Schreibman, L., & Stahmer, A. C. (2020) Naturalistic developmental behavioral interventions for autism spectrum disorder. Baltimore, MD: Paul H. Brookes Publishing Co.
  • 2.Ingersoll, B., & Dvortcsak, A. (2019) Teaching social communication to children with autism and other developmental delays: The Project ImPACT guide to coaching parents (2nd ed.). New York: The Guilford Press.
  • 3.Kaufman, K. A., Glass, C. R., & Pineau, T. R. (2018) Mindful sport performance enhancement: Mental training for athletes and coaches. Washington, DC: American Psychological Association.

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