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伝統と芸術の街ウィーンでの生活
三國 珠杏(みくに じゃん)
Profile─三國 珠杏
慶應義塾大学社会学研究科心理学専攻博士課程,ウィーン大学心理学専攻博士課程Joint Degree Cotutelle Thesis修了。Doktorin der Philosophie (Dr. phil.)。専門は行動科学,実験美学。共同第一著者論文にBrinkmann, Mikuni et al. (2023) Cultural diversity in oculometric parameters when vieiwng art and non-art. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts. http://doi.org/10.1037/aca0000563など。
2018年に日本学術振興会「若手研究者海外挑戦プログラム」を利用してオーストリア,ウィーンを訪れてから早5年が経ちました。3年ほど東京とウィーンを往復する生活を続けていましたが,現在はウィーン大学心理学専攻のポスドクとして研究をしています。今回はウィーンの街や,ウィーンでの研究についてご紹介したいと思います。皆さんが少しでもウィーンに足を運びたくなるお話ができればとても嬉しいです。
さて,オーストリア,ウィーンといえば皆さん何を思い浮かべますか? ウィーン少年合唱団やサウンド・オブ・ミュージック,ウィーン分離派の画家クリムトの出身地のように音楽や芸術,文化が盛んな国であるという印象をお持ちの方も多いのではないかと思います。実際にウィーンの街並みは,歩く博物館とも形容できる荘厳で華麗な雰囲気を纏っています。街の中心に位置するシュテファン大聖堂や,聖堂を取り囲む彫刻物はまさにハプスブルグ家の繁栄を象徴し,いつ見ても圧巻の景色です。文化が盛えた美しい都というイメージの強いウィーンですが,中心街から西に15分ほど電車に揺られると,ドナウ川や川を囲む森林公園にアクセスできます。街の北西にはカーレンベルグという山があります。この山にはたくさんのワインヤードがあり,毎年秋になるとその年にとれたワイン(ホイリガー,heuriger)を飲みにたくさんの人が訪れます。都市部と自然との距離が非常に近いことも,この街の大きな魅力の一つです。
ウィーンの中心街から歩いて10分ほどすると,ウィーン大学のメインキャンパスに到着します。キャンパス中央にある中庭は,ウィーン大学が輩出した著名な研究者たちの彫像に囲まれるような形になっています。カール・ポパー,シュレディンガーやフロイトなど,著名人に囲まれながらピクニックをしている学生たちをよく見かけます。大学は誰でも無料で入ることができるので,ウィーンにお越しの際は是非立ち寄ってみてください。
私の所属する研究室は,Eva lab(Empirical Visual Aestehtic Laboratory)というの名の通り,審美評価や選好を形成する過程についてや,感性経験が私たちにどのような影響を与えるのか,といった研究を専門としています。現在構成員は30名ほどですが,所属メンバーの国籍は約15か国,文化背景が多様な点は,研究室の大きな魅力の一つです。これは欧州連合自体の魅力でもあると思いますが,ヨーロッパでは国家間の人の動きが非常に活発です。連合加盟国で人が行き来する場合には,基本的にビザは必要ありません。多様な文化に触れてみたい,という方で留学をお考えの場合には,ヨーロッパはとても良い環境ではないかと思います。研究先としてのウィーンの魅力は,民間施設が研究活動に協力的である点が挙げられます。商業施設で実験をしたい場合,メールや電話で問い合わせれば許可が下りる場合が多いです。大学の研究に関する民間からの関心が高いこと,そして研究活動を柔軟に支援してくれる施設が多いことは非常にありがたいです。
「海外での研究は貴重な経験になるから積極的に行ったほうがいい」というアドバイスは,私も日本にいた頃に耳にしました。しかし,コロナ禍や物価高の影響など,海外挑戦自体のハードルが以前よりも高くなってしまったように感じます。オーストリアには,研究活動の経済的支援を目的とした組織が多く存在します。ご興味がある場合には,オーストリア科学基金(FWF),ウィーン科学研究技術基金(WWTF),オーストリア科学アカデミー(ÖAW)など,研究支援組織のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。修士や博士の学生さんへの支援から,サバティカルのサポートに至るまで,きっと皆さんのニーズにあった支援を見つけることができるはずです。
ウィーンにお越しの際には是非ご連絡ください。コーヒーハウスでヴィーナーコーヒーを飲みながら,日本の研究者の皆さんと研究交流ができる日を心待ちにしています!
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