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心理学史諸国探訪【第22回】

立命館大学総合心理学部教授/学部長 サトウタツヤ
フィリピンの心理学者たちの生没年や写真を探すのに非常に手間取り、また氏名の読み方もよくわからないし……ということで大変でした。一方でエステファニア・アルダバ=リムさんについてはフェイスブックが設けられていて写真も多数あったりしてそのギャップに翻弄されてます。ギャップ萌え?

サトウタツヤ

フィリピン─①

フィリピンでは1565年にスペインによる植民地化が始まります。そして19世紀末にフィリピン共和国の成立をみたものの(1899年),結果的にアメリカの植民地となりました。この時期にアメリカの影響を受けて教育制度が整えられ,いわゆる近代心理学が学科目としてフィリピンに導入されることになります。この時には研究を行う専門家はおらず,1920年代以降になってから,アメリカで心理学を学び博士号を取得した人々が帰国してフィリピンで研究を開始します。

アグスティン・アロンソ(Agustin Alonzo)は,シカゴ大学で実験心理学(ラットの研究)の博士号を取得し,帰国後はフィリピン大学教育学部に心理学専攻を設立しました(1926年)。やがて,Elizabeth Protacio MarcelinoとSylvia Estrada Claudioという二人が最初の博士号取得者となります。前者は戦争や貧困などの厳しい条件下にある子どもの研究と支援を,後者はフェミニスト心理学を,それぞれ発展させました。

1930年代には聖トマス大学(1611年設立)において,初めて,学士,修士,博士レベルの一貫した心理学教育が行われました。また,1932年,米国ミネソタ大学で博士号を取得したシンフォロソ・パディーヤ(Sinforoso Padilla)によって,フィリピン大学に学生ガイダンスのための心理クリニックが開設されました。

Sinforoso Padilla
Sinforoso Padilla(d.1981)
https://washingtoncountyheritage.org/s/wcho/item/50871

1933年にはアイオワ州立大学で博士号を取得したジーザス・ペルピナン(Jesus Perpiñan)が極東大学(Far Eastern University)に心理学専攻を設立し,さらに,最初の心理学クリニックを設立しました。このクリニックでは,カウンセリング,心理検査,催眠,心理療法などが行われていました。

エステファニア・アルダバ=リム(Estefania Aldaba-Lim)は,フィリピン女子大学(Philippine Women’s University)で学士,フィリピン大学で修士を終え,1942年にミシガン大学で臨床心理学の博士号を取得しました(この領域で最初のフィリピン人です)。帰国後,彼女は母校のフィリピン女子大学に心理学専攻を設置し,また,精神衛生に関するフィリピンで最初の研究所である人間関係研究所を設立しました。彼女は,精神遅滞児の教育,教師の訓練プログラム,中等学校での人間関係の指導を,この研究所が提供するサービスに組み込む努力を続けました。さらに彼女はフィリピン女子大学で心理士になるための国内最初の体系的な実習プログラムを整備しました。そして1965年にはフィリピン心理士の会の設立に力を尽くしました(なお,フィリピン心理学会はそれに先立つ1962年にシンフォロソ・パディーヤやエステファニア・アルダバ=リムらによって設立されています)。また,彼女の活躍は心理学にとどまらず,1977年にはフィリピン初の女性閣僚として社会福祉開発省の長官に選任されたほか,ユネスコなど国際機関において,女性や子どもの問題に取り組みました。その功績に対して1979年には国連の平和メダルが授与されました。

Estefania Aldaba-Lim
Estefania Aldaba-Lim(1917–2006)
https://feministvoices.com/profiles/estefania-aldaba-lim

今回は,フィリピンに近代心理学が導入された経緯を見てきましたが,フィリピン心理学の魅力は,indigenous(原産;土着;固有)の心理学を発展させたところにこそあるのです!!
次回はその魅力に迫ります。

文献

参考サイト

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