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1. はじめに(Introduction)

はじめに(Introduction)

以下のガイドラインは,一般に「遠隔心理学(telepsychology)」として知られている心理支援サービスの提供にまつわる発展途上の領域に対応するために作成されたものです。以下のガイドラインでは,「遠隔心理学の定義」で示されているように,遠隔心理学を情報技術を利用した心理支援サービスの提供と定義します。心理支援サービスの提供における科学技術の役割の拡大と,心理学の実践に役立つ可能性のある新しい科学技術の継続的な発展は,遠隔心理学の実践に特有の機会,留意点,課題を示しています。科学技術の進歩とそれを利用する心理士が増加する昨今の状況を踏まえて,心理士を教育し,指導するためにこれらのガイドラインが作成されました (訳注: 心理士は psychologist の訳で,日本では臨床心理士や公認心理師などが主に該当します)。

以下のガイドラインは,米国心理学会(APA)の基準やガイドラインに基づいています。例えば,「心理学者の倫理原則と行動規範」("APA Ethics Code")(APA, 2002a, 2010)や「記録保持に関するガイドライン」(Record Keeping Guidelines)(APA, 2007)を含みます。さらに,APAの「心理学者のための多文化研修,研究,実践,組織変革に関するガイドライン」(APA, 2003)の基盤をなす前提と原則も,それぞれのガイドラインの根拠やその適用の全体に反映されています。したがって,以下のガイドラインは専門的な理論,エビデンスに基づいた実践,そして定義に基づいており,遠隔心理学の実践における最善のガイダンスとなるように配慮されています。

この文書の中でガイドラインという用語を使用する場合は,心理士に提案もしくは推奨される特定の専門的な行動,努力,振る舞いについての記述を指します。ガイドラインは基準(standard)とは異なり,強制力を伴うものではありません。ガイドラインは,心理士の理想的な振る舞いを意図するものといえます。これらは,体系的かつ持続的に専門性が発展するよう促し,心理士の専門的な実践が高いレベルとなることを保証持するのに役立つよう作成されました。「ガイドラインは,心理士の実践を教育,普及するために作成されています。また,議論と研究を活性化させることも意図されています。ガイドラインは,心理学の特定のグループや専門分野のアイデンティティを確立するためために公表されるものではありません。同様に,心理士が特定の分野で行う実践を排除する目的で作成されるものでもありません」(APA, 2002b, p. 1048)。「ガイドラインは,強制したり,徹底を求めるものではありません。また,あらゆる専門的活動や臨床実践において適用可能なものではないかもしれません。それらは決定的なものではありませんし,心理士の判断より優先することを意図したものでもありません」(APA, 2002b, p. 1050)。これらのガイドラインは,心理士が専門的なサービスを提供する手段として,遠隔でのコミュニケーションのための情報技術を現在の専門的な実践の基準に適用する際に,心理士をサポートすることを目的としています。これらのガイドラインは,実践の範囲を変更したり,心理士の特定グループの実践を定義したりすることを意図したものではありません。

遠隔での心理支援サービスの実践には,法的要件,倫理基準,遠隔でのコミュニケーションのための情報技術,省庁内・省庁間の方針,その他の外部からの制約や,特定の専門的な文脈での要求を考慮する必要があります。状況によっては,ある考慮事項が他の考慮事項とは異なる行動を示唆することもあり,その際に適切にバランスをとることは心理士の責任となります。これらのガイドラインは,心理士がそのような決定を行う際に活用していただくために作成されています。加えて,心理士は,同じ法制度の地域内あるいは法制度が異なる地域や国家では、実践のあり方がどのように定められているかを理解し,遵守することが必要があります。これは,遠隔での心理支援サービスを提供する場合に特に当てはまります。心理士がある地域からそれとは別の地域にいるクライエントや患者にサービスを提供している場合,法規制が地域間で異なる場合があります。また,遠隔での心理支援サービスを実践する心理士は,遠隔でのコミュニケーションのための情報技術を利用したサービスの提供に関連する概念の理解・向上に努める責任があります。本ガイドラインのいかなる内容も,倫理基準,連邦政府や居住地の法規制に基づく心理士の活動,あるいは政府機関や公的機関で働く心理士に制限を設けることを意図したものではありません。他のすべての状況と同様に,心理士は,自身が働く地域や状況で適用されている実践基準を理解し,遵守することが期待されています。ガイドラインに関連した提言は,広く倫理原則(APA倫理コード,2002a, 2010)と一致しており,遠隔での心理支援サービスを提供する際には,現在のすべての法的・倫理的な実践基準を適用することが心理士の責任であることに変わりはありません。

APAの方針では,一般的にガイドラインの必要性を確立し,ガイドラインの記述自体を正当化するためには,関連する最新の文献について十分なレビューを行わなければいけません(APA, 2005)。遠隔心理学タスクフォースの作業を支える文献やガイドラインの掲載内容は,この分野に関連し影響力のある最新の出版物による知見を反映しています。

レビューに含まれる文献は,過去約15年間の研究とそれより前の代表的な研究を重視し、それら研究が、ガイドラインの実証的な裏付けや関連する事例となっています。しかし,この文献レビューは,網羅的なものではなく,また心理士のための専門的な実践ガイドラインを作成する際に慣習的に行われている文献の包括的な系統レビューとしての役割を果たすことを意図したものでもありません。