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【特集】

応用行動分析と人工知能の協働

松田壮一郎
日本学術振興会 特別研究員(PD)/筑波大学システム情報系 特別研究員

松田壮一郎(まつだ そういちろう)

Profile─松田壮一郎
2015年,慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了。博士(心理学)。慶應義塾大学先導研究センター訪問研究員,Visiting Researcher, Center for Autism Research, Children’s Hospital of Philadelphiaを兼任。専門は応用行動分析,自閉症スペクトラム障害。論文はFacilitating social play for children with PDDs: Effct of paired robotic devices(Frontiers in Psychology)など。

私はこれまで,社会的相互作用に困難を示す自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder: ASD)児を対象とした支援研究を応用行動分析に基づき行ってきた。そして今は,人工知能研究室に所属し,応用行動分析のさらなる発展を目指している。本稿では行動分析学,そして応用行動分析とASD児支援の概要を踏まえ,応用行動分析と人工知能が協働して取り組む研究事例を紹介する。

図1 三項随伴性

行動分析学

20世紀において最も影響力のある心理学者は誰か,という問いを聞いて,読者の皆さんは誰を思い浮かべるだろうか? この問いに答えるべく,先行研究では学術雑誌・教科書における引用数などをもとに,影響力のある心理学者ランキングを作成した1。結果は,フロイトやピアジェではなく,B. F. スキナーが首位であることを示した。B. F. スキナーは,心理学の一体系である行動分析学を創始し,現在では理論・実験・応用,三つの分野にまたがる学問体系が形成されている。行動分析学は,「徹底的行動主義2」という哲学,そして「単一事例研究計画法3」という方法論によって特徴づけられる。

B. F. スキナーをJ. B. ワトソンと同じ行動主義者と捉える誤りは多いが4,徹底的行動主義とワトソンの行動主義は異なる。その立場は「心的出来事とされるものは分析により全て行動に関する言明となる5」というものである。つまり,「意識」や「感情」の存在を認めないのではなく,それらを行動の一部として分析する。

それでは,行動分析学では行動をどのような枠組みで捉えるのだろうか。それは,弁別刺激(discriminative stimulus: SD)─反応(response: R)─強化子(reinforcer: SR+/−)からなる,三項随伴性(three-term contingency)である(図1)。先行する特定の刺激の下で特定の反応が生起し(刺激性制御: stimulus control),その刺激の下における反応の生起頻度は,反応に後続する強化子により増減する(強化:reinforcement)。弁別の例を挙げよう。例えば,Aさんのニコニコしている表情(SD)を見ると,私が朗らかに「おはよう」と言う挨拶が生起する(R)。Aさんがご機嫌に「おはよう」と返事を返してくれているからだろう(SR+)。一方,Aさんのイライラしている表情を見た場合には,私の「おはよう」と言う反応は生起しない。きっとこれまでイライラした表情の時にはAさんが返事してくれなかったからだろう。これは,私がAさんのニコニコとイライラの表情を弁別していることを意味する。

応用行動分析とASD児支援

上記の三項随伴性の枠組みにおいて,主にラットやハトを被験体とする動物実験をもとに,学習に関する様々な知見が蓄積されていった6。そしてそれら理論的・実験的行動分析がもたらした知見を背景に,現実場面における様々な社会的問題の解決へ取り組む応用行動分析が発展してきた。現在では組織マネジメントやカウンセリング,果ては地雷の撤去7など,様々な領域へ貢献している。中でも,最も大きな社会的影響を有するのはASD児への支援だろう。応用行動分析を用いたASD児早期発達支援に掛かる費用への保険適用が,全米50州のうち45州(執筆時現在,2017年4月)において,州法により定められていることからも明らかである。

歴史的に大きな影響力を得た実験的事実としては,米国の応用行動分析家であるO. I. ロヴァースらが,無発語のASD児2名に対し,強化により音声模倣を獲得させた結果をScience誌上で1966年に発表したこと8,そして1987年に高密度の早期介入によって,実験群20名のうち約半数の9名が通常域の知能指数を示したことが挙げられる9。一方,日本では1960年代から,梅津耕作先生や小林重雄先生により,ASD児に対する強化を用いた発達支援が普及されていった。

図2 (a)モーションキャプチャ・カメラシステム,(b)着衣型心拍変動計測装置,(c)対面行動を計測・拡張するウェアラブルデバイス,(d)球体コミュニケーションデバイス「COLOLO」

人工知能との協働

以上のように,応用行動分析は半世紀以上にわたりASD児支援においても発展を続けている。しかし,さらなる行動の理解のためには,応用行動分析家自身が多様な強化子に晒され,多様な反応を獲得し,そして他の研究者にとっての多様な弁別刺激(研究成果)を生み出さなければならない。その問題解決のためには他分野との協働が不可欠だろう。そこで私が協働相手として選択したのが,人工知能研究者である。

応用行動分析の目的である,行動の,①記述,②予測,③制御10,に対応した人工知能との関わりを考えると,それぞれ,①センシング技術,②機械学習,③ロボティクス,の活用が考えられるかもしれない。特に,①記述について,fMRIなどの脳イメージング技術の導入は心理学の発展に大きく寄与しているが,行動を計測する行動イメージング技術導入は未だ容易ではない。しかし近年,個人の社会的行動だけではなく,複数人間の社会的相互作用を顕在化して明示する技術,「ソーシャル・イメージング」の確立が目指されている11。以下では,特に①記述・③制御へ特に焦点を当て,ASD児における行動の定量的測定とリアルタイム計測に基づく即時強化に向けた最新の取り組みを紹介する。

モーションキャプチャ・カメラシステムを用いた相対的距離の計測 療育場面において,セラピストとASD児間の対人距離は,どのような意味を持つだろうか。これまでにもビデオ観察に基づく,接近や回避の定性的な評価は可能だったが,定量的な評価が行われることはなかった。そこで我々は療育を行うプレイルームにモーションキャプチャ・カメラシステムを導入し,室内におけるヒトの三次元座標をリアルタイムで取得できるようにした。感覚過敏を有することの多いASD児を対象とするため,学校場面で用いることの多い紅白帽へ,座標取得に必要なマーカーを取りつけるなどの工夫を行なっている(図2a)。これまでには,辻ら12によりASD児,セラピストそれぞれの三次元座標データを利用し,接近−回避行動をモデル化することに成功している。

着衣型ECGを用いた心電位の計測 ASD児の感情認知や共同注意などの行動と心拍変動指標である心拍(Heart Rate: HR)や呼吸性洞性不整脈(Respiratory Sinus Arrhythmia: RSA)は関係があるといわれる。療育場面におけるASD児の心拍変動指標を計測することによって,離席などの問題行動を予測できるだろうか。これまでASD児を対象とした研究では,胸部に湿式電極を貼り付けるため,長期にわたる心電位計測や,知的障害を有するASD幼児への計測は困難であった。そこで高橋ら13は伸縮性の導電布をスモッグに縫いつけ,計測機器も衣服に埋め込み,着るだけで心電位や活動量を計測できる着衣型デバイスを開発した(図2b)。このデバイスの利用は,既に生活年齢4歳から6歳(発達年齢1歳から5歳)のASD児6名に対して長期的に実施され,心拍変動の計測に成功している。今後は行動と心拍変動の対応関係について検討していく。

ウェアラブルデバイスを用いた対面行動の計測 顔と顔を向き合わせる(face to face)行動はアイコンタクトや発話,笑顔に先行して生起するといわれる。他者とのアイコンタクトを避ける,他者に対して話しかけることや笑いかけることが少ないASD児は,どれほど対面行動を自発しているのだろうか。この疑問を解決するため,蜂須ら14は対面行動を計測し,拡張するウェアラブルデバイス(図2c)を開発した。対面行動を,二者の顔がそれぞれの顔正面方向より±20度以内に位置することと定義し,赤外線通信モジュールにより対面行動をリアルタイムで検出する。今後は,デバイスに搭載された発光モジュールを活用することにより,弁別刺激,もしくは強化子としての対面行動における光の機能も検討する。

球体コミュニケーションデバイスによる交互交代遊びの促進 他者との関わりに障害を示すASD児にとって,他者と遊ぶスキルの獲得は重要である。しかし,遊びの中で操作されるモノ自体を利用して遊び場面の行動を制御することはこれまでほとんど行われていない。そこで,ヌネスら15は球体コミュニケーションデバイス,「COLOLO」を開発した。COLOLOは加速度センサ,制御LSI,微弱無線モジュール,モータ,LEDから構成され,基本的に同一のデバイス一対を用いる。子どもがデバイスAを転がすと,球体内の加速度センサがその動きを検知し,相手のデバイスBへ信号を送る。すると,デバイスBのLEDが光ると共に,内部のモータが回転し,デバイスBは回転動作を生じる(図2d)。この一連の動作を通じて,交互交代におけるデバイス操作を即時に光と振動により強化することが可能になる。COLOLOを利用したASD児6名を対象とした実験では,デバイス操作,及び相手のデバイスへの注視頻度が増加することが確認されている。

古くて「新しい」応用行動分析に向けて

社会的行動は,1個体(例えばAさん)のみでは成立し得ない。必ず他個体(例えばBさん)の行動が弁別刺激となり,強化子となっている。また,その他個体(B)の行動自体も,その個体(A)の行動によって制御されているのである。つまり,対人相互作用のダイナミクスにおける行動を記述,予測,制御するためには,1個体の行動を計測するだけではなく,複数個体の行動の計測が必要不可欠なのだ。人工知能との協働は,1個体のみならず複数個体の行動計測を可能にする。そして応用行動分析家は,計測された定量的データをもとに社会的行動の新たな制御変数を見出していき,さらには技術自体を新たな制御変数として活用する。このような取り組みはまさしく,「新しい」応用行動分析と言えるのではないだろうか。

文献

  • Haggbloom, S. j., et al.(2002)The 100 most eminent psychologists of the 20th century.  Review of General Psychology, 6 , 139-152.
  • Skinner, B. F.(1974) About behaviorism . New York: Random House, Inc.
  • Sidman, M.(1960) Tactics of scientific research . New York: Basic books.
  • 佐藤方哉(1996)認知科学と行動分析学との〈対話〉は可能か.『哲學』275-299.
  • Mace, C. A (1949) Some implications of analytical behaviourism: The presidental address. Proceedings of the Aristotelian Society, 49, 1-16.
  • Keller, F. S. & Schoenfeld, W. S.(1950) Principles of psychology: A systematic text in the science of behavior . New York: Appleton-Century-Crofts.
  • Poling, A., et al.(2011)Using trained pouched rats to detect land mines: Another victory for operant conditioning.  Journal of Applied Behavior Analysis, 44 , 351-355.
  • Lovaas, O. I., et al., (1966) Acquisition of imitative speech by schizophrenic children. Schience, 151, 705-707.
  • Lovaas, O. I.(1987)Behavioral treatment and normal educational and intellectual functioning in young autistic children.  Journal of Consulting and Clinical Psychology, 55 , 3-9.
  • Cooper et al.(2006) Applied behavior analysis (2nd ed). NJ: Pearson.
  • 鈴木健嗣(2015)社会的行動のライフログとソーシャル・イメージング.『心理学ワールド』 69 , 25-26.
  • Tsuji, A., et al.(2016)Interpersonal distance and face-to-face behavior during the therapeutic activities for children with ASD. In  Computers helping people with special needs (pp.367-374). Springer International Publishing.
  • Takahashi, K., et al.(2016)An ECG monitoring of children with autism spectrum disorders using wearable device. In  Computers helping people with special needs (pp.367-374). Springer International Publishing.
  • 蜂須拓他(2016)対面行動を拡張するウェアラブルデバイス:赤外線通信による物理的対面の計測.『電子情報通信学会HCGシンポジウム2016論文集』61-65.
  • Nuñez, E., et al.(2016)An Approach to Facilitate Turn-taking Behavior with Paired Devices for Children with Autism Spectrum Disorder.  Proc. of the 25th IEEE international symposium on robot and human interactive communication (RO-MAN 2016). pp.837-842.

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