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心理学史諸国探訪【第11回】

サトウタツヤ
立命館大学総合心理学部 教授。前回に引き続き南米大陸の国。宗主国からの独立の時期に心理学が導入されたことやスペインから女性心理学者が亡命してきたことなど,世界史的な意味が面白い。5年間,学部長として引っ張ってくれた佐藤隆夫先生の後を引き継ぎ総合心理学部長/大学院人間科学研究科長になりました。

サトウタツヤ

コロンビア

南アメリカ大陸の北西部に位置するコロンビアは,日本の面積のほぼ3倍の国土に約5000万人が住んでいます。2004年の時点で34000人が心理学を学び,職業としての心理士は36000人を数えており,心理学が盛んな国の一つだと言えるでしょう。

コロンビアは1500~1810年にかけてスペインの植民地でした。この時期に国民性の研究を著した(1808)のがフランシスコ・ホセ・デ・カルダス(Francisco José de Caldas y Tenorio; 1768–1816)です。気候が人々の行動に与える影響に注目したものです。

Francisco José de Caldas y Tenorio
Francisco José de Caldas y Tenorio
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/4c/El_Sabio_Caldas.jpg/215px-El_Sabio_Caldas.jpg

1810~1819年がコロンビア独立の時期であり,スペインの影響を排してイギリスやフランスの思想が取り入れられました。コロンビアではドイツのヴント(Wilhelm M. Wundt)による近代心理学はイギリス経験論を通じてが紹介されることになりました。宗主国以外から経験論や実証主義という思想が取り入れられる風潮は前回とりあげたアルゼンチンと同様です。

コロンビアで最初の心理学者とされているのはロペス・デ・メサ(López de Mesa; 1884–1967)です。彼はコロンビア国立大学で医学を修めた後,アメリカのハーバード大学で心理学と精神医学を専攻しました。応用心理学のヒューゴー・ミュンスターベルク(Hugo Münsterberg)などから心理学を学びました。彼は1920年には最初の心理検査を開発しました。また1939年にはコロンビアの国立大学の学長として,スペインの心理学者メルセデス・ロドリゴ(Mercedes Rodrigo;1891–1982)を招聘することにしました。

ロドリゴは心理学を学ぶシステムがない時代のスペインに生まれたものの,スイスに留学しジュネーブ大学で心理学を専攻しピアジェ(Jean Piaget)やクラパレード(Antoine René-Edouard Claparède)の教えを受けました。スペインに帰国後は,国立聾唖学校,国立精神技術研究所,少年裁判所,非行少年の家で心理学者として働きました。1936年には国立精神技術研究所の所長に任命され1939年までその職に就いていました。

第二次世界大戦前後のスペイン内戦が大きな影を落としていたこともあり,彼女はコロンビアに亡命することになりますが,招聘したのは前述のメサでした。そして,第二次世界大戦後の1947年にはコロンビア国立大学に応用心理学研究所が設立され,彼女はそこでも活躍しました。一般に,コロンビアにおける心理学の誕生はこの年であるとされています(Ardila, 2004)。

しかしその1年後,彼女はソ連に旅行したことなどから政治的な偏りがあると見られ,(49~60歳までコロンビアの心理学に貢献したにもかかわらず)不本意ながらプエルトリコへと二度目の亡命をすることになりました。ただし同国でも心理学の発展に貢献し,1957~1959年にはプエルトリコ心理学会の会長も務めました。

文献

  • Ardila, R. (2004) Psychology in Colombia: Development and current status. In: M. J. Stevens & D. Wedding (Eds.), Handbook of international psychology (pp.169–178). New York: Brunner–Routledge.

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