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ここでも活きてる心理学
障がい福祉の現場で活きる心理学
ゆたかカレッジ研究所 所長
羽藤 律(はとう ただす)
Profile─羽藤 律
横浜国立大学教育学部卒業。京都市立芸術大学大学院音楽研究科,大阪大学大学院工学研究科修了。芸術文化の支援団体等を経て現職。放送大学非常勤講師。認定心理士,博士(工学)。
筆者の勤務するゆたかカレッジは,「すべての人への学びの機会の創造を通して社会に貢献する」を理念に,知的障がい,発達障がいの青年期の利用者様(学生と呼ばせていただいています)に対する,自立訓練(生活訓練),就労移行支援の事業所を,2021年3月現在,関東・東海地区の7か所で展開しています。学生は,多様な活動や授業を通して,生きる力や折れない心を育みつつ,将来の自立や就労に向けて日々学習活動に取り組んでいます。
筆者の所属する横浜キャンパスは,約30名が自立訓練を行っています。横浜キャンパスは,保護者様の誘致活動によって,2019年4月に開設され満2年になります。活動の特徴として,田んぼ体験・地域活動・販売体験などの体験学習の重視,応用行動分析などの実践者・民間企業のトレーナー・音楽家を育成してきたピアノ講師・障がい者支援の専門家等専門性を持った支援教員による授業,また,近隣大学との連携による交流,さらに,余暇活動の充実を挙げることができます。
授業や活動の中で学生から逆に教えられるのは,心理学のニーズがとても高いことです。それを受けて,筆者はこれまで,「労働」「経済」「文化芸術(音楽)」「スポーツ」「ヘルスケア」「自主ゼミ」等の授業に関わらせていただいていますが,心理学の方法や考え方を少しずつ参考にしながら進めています。例えば「労働」においては,自己開示から交流を図るワークや,注意や記憶の機能を確認しながら,「働くこと」に対する考え方を深めています。「経済」においては,数的操作や数的操作に関する考え方を土台に,お金の数え方や自立に向けた計画的な金銭管理を目指しています。「文化芸術(音楽)」においては,能動的音楽療法を取り入れながら,系統的な方法を提案・実践しています。「スポーツ」は,各々の個性に応じた活動を通して,メンタル面でも前向きになれるような取り組みをしています。「ヘルスケア」においては,マインドフルネスを積極的に取り入れ,身体に対しての自然な感覚を生かし,ストレスの解消,最終的には障がいの受容も視野に入れています。「自主ゼミ」においては,学生が自由にテーマを設定し,追求しながら,「考える」ということはどういうことか深めています。最終的には合理的配慮のもと,学生の様々な面での自己決定・自己実現が少しでも果たせることを願っています。
加えて,日本心理学会音楽心理学研究会論文集に「音楽心理学の知的障害・発達障害への応用について」や「知的障碍のある青年の音楽による感情コントロール」というテーマで社会に発信しています。最近では「にがてな音」や「音楽聴取の心理的機能」に関する研究を継続し,日本心理学会大会を通じて発表しています。
昨今の知的障がい・発達障がいのある方々に対する支援や,インクルーシブ教育の重要性が注目されるなかで,取り組みの意義を深く感じます。さらに,心理学の専門職として必ずしも働いていなくても,心理学を活かすことができるということを日々実感するとともに,これまで私に心理学を学ばせていただいた諸先輩方に心より感謝申し上げます。
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